東京医科歯科大学などの研究グループは、高脂肪食などによる肥満が薄毛・脱毛を促進するメカニズムを解明しました。肥満を引き起こす要因が、毛包幹細胞にも働きかけ、脱毛を促進しているといいます。
早期から肥満を予防する介入を行うことで、毛包幹細胞を維持でき、脱毛症の進行を抑制できることも明らかになりました。
あ
肥満が脱毛を引き起こすメカニズムを解明
東京医科歯科大学などの研究グループが、肥満を引き起こす要因が毛包幹細胞にも働きかけ、脱毛を促進する仕組みを明らかにしました。体を構成する多くの臓器は、加齢にともないその機能や再生能力が低下し、さまざまな加齢関連の疾患を発症するようになります。年齢とともに基礎代謝量が低下し、中年期に太りやすくなることはよく知られています。
しかし、肥満がいかに臓器の老化や加齢関連疾患の発症と関わるのか、どの細胞集団が標的となっているのかといった、肥満を引き起こす障害のプロセスやメカニズムについては十分に解明されていません。そこで研究グループは、高脂肪の食事などの生活スタイルや、肥満の遺伝が、脱毛症の発症をどのように促進するかを明らかにする研究に取り組みました。
その結果、肥満を引き起こす要因が、毛包幹細胞にも働きかけ、脱毛を促進していることが分かりました。さらに、早期から肥満を予防する介入を行うと、毛包幹細胞を維持でき、脱毛症の進行を抑制できることも示されました。
研究は、東京医科歯科大学難治疾患研究所幹細胞医学分野の西村栄美教授(東京大学医科学研究所 老化再生生物学分野 教授兼任)と森永浩伸プロジェクト助教らの研究グループが、ミシガン大学や東京理科大学などと共同で行ったものです。研究成果は、国際科学誌「Nature」にオンライン掲載されました。研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「老化メカニズムの解明・制御プロジェクト」や、アデランス社による実用化研究支援などの支援を得て行われました。
あ
齢をとると毛を生やす細胞を維持できなくなる
加齢にともなう脱毛は典型的な老化形質として知られ、中年期から進行します。肥満が男性型脱毛症の危険因子となることはこれまでの調査でも示されていますが、肥満がより広く薄毛・脱毛に関わっているかどうかや、その仕組みについてはよく分かっていません。
研究グループは、毛の再生のもととなる「毛包幹細胞」に着目し、加齢による薄毛・脱毛が毛包幹細胞の枯渇によることをこれまでに明らかにしています。
毛包は毛を産生する皮膚付属器官で、毛包幹細胞は毛包の再生をになう組織幹細胞です。ふだんは毛を周期的に再生する領域の再生を担っています。本来は、毛包幹細胞は毛包のバルジ領域と呼ばれる部位にあり、自己複製で幹細胞プールを維持しながら、毛を生やす毛母細胞を供給しています。若年期には、毛包幹細胞を周期的に活性化し、毛包の再生と退縮を反復することで、毛が周期的に生え変わっています。
しかし、齢をとると毛包幹細胞が自己複製せずに表皮細胞に分化し、幹細胞プールが維持されなくなり、毛を再生できなくなります。しかし、これはあくまで遺伝的にも環境的にも同一の条件下でみられる毛包の老化です。実際にはヒトではさまざまな生活スタイルや遺伝要因が大きく影響し、脱毛の進行には個体差があります。
あ
高脂肪食で肥満になったマウスは毛の再生ができなくなる
そこで研究グループは、生活スタイルが毛の周期的再生に及ぼす影響や老化との関連を調べるために、老若両方のマウスに高脂肪食を与え、その違いを検証しました。
その結果、加齢マウスでは、1ヵ月間だけ高脂肪食を摂取するだけでも、毛が再生しにくくなり、若齢マウスでは、数ヵ月以上の高脂肪食に加え毛周期(ヘアサイクル)を繰り返すことで毛が薄くなることが明らかになりました。
次に、その違いが発生する仕組みを明らかにするため、マイクロアレイやRNA-seq法などを用いた網羅的遺伝子発現解析、ならびに毛包幹細胞の遺伝学的細胞系譜解析(運命追跡)を行いました。
毛周期を制御することで、毛包の成長期や休止期など異なる毛時期で、毛包幹細胞で発現する全遺伝子を解析し、遺伝子組換えにより特定の細胞に蛍光蛋白の発現などの永続的な標識を行い、その細胞とその細胞から生み出される子孫細胞をすべて追跡して調べました。
その結果、4日間という短期の高脂肪食でも、毛包幹細胞で酸化ストレスや表皮分化に関わる遺伝子の発現が誘導されました。
若い個体では、毛包幹細胞のプールは維持され、毛の再生への影響もみられませんでした。
さらに、3ヵ月以上にわたり高脂肪食を摂取したマウスでは、毛包幹細胞内に脂肪滴が蓄積し、成長期に毛包幹細胞が分裂する際に表皮または脂腺へと分化することで幹細胞の枯渇が進むことが明らかになりました。
脂肪滴とは、中性脂肪やコレステロールなどの過剰な脂質を貯蔵する液滴状の細胞小器官のことです。これにより、毛包の萎縮(ミニチュア化)が引き起こされ、毛の再生をになう細胞が供給されなくなり、脱毛症が進行し、毛が細くなったり生えなくなるなど、脱毛症の諸々の症状があらわれた。
あ
毛を生やす細胞を活性化する方法を開発
本来であれば、毛包が成長期に入って幹細胞が分裂する際に、ソニックヘッジホッグ経路(Shh経路)が強く活性化されます。Shh経路は、形態形成や細胞増殖をコントロールする重要な経路です。
しかし、3ヵ月以上にわたり高脂肪食を摂取すると、十分な活性化が起こらなくなることが明らかになりました。
Shh経路は本来はその活性化により、毛包幹細胞を増やし、毛を再生し続けますが、肥満したマウスではShh経路の活性化が十分に起こらないことが分かりました。若齢マウスでも、成長期毛包の毛包幹細胞でShh経路を抑制すると、同様に幹細胞の異常分化や枯渇、毛包の萎縮による薄毛・脱毛が起きることが分かりました。
さらに、どのような仕組みでShh経路の活性化が起こらなくなるのか調べたところ、IL-1bやNF-KBといった炎症性サイトカインシグナルが幹細胞内に発生し、再生シグナルであるShh経路を強力に抑制していることが分かりました。
サイトカインは生理活性物質の一種で、体の炎症反応に深く関係しています。
最後に、毛包幹細胞でのShh経路の再活性化により、肥満による薄毛や脱毛が改善するかを調べるため、遺伝学的手法や薬理学的手法を用いて検証しました。その結果、高脂肪食の開始初期から、Shh経路を活性化し幹細胞を維持した場合にのみ、脱毛症の進行を抑制できることが確認されました。
あ
肥満を予防すると毛包幹細胞を維持でき脱毛症をストップできる
今回の研究では、毛を生やす機能をになう小器官である毛包で、肥満の環境要因や遺伝学的要因が、幹細胞内でのシグナルへと収束して再生シグナルを抑制し、これが幹細胞の枯渇と器官の機能低下につながることが明らかになりました。
肥満を引き起こす要因が、毛包幹細胞にも働きかけ、脱毛を促進しています。さらに、早期から肥満を予防する介入を行うと、毛包幹細胞を維持でき、脱毛症の進行を抑制できることも明らかになりました。
肥満は、2型糖尿病や虚血性心疾患、認知症、がんなど、多くの加齢に関連する疾患の危険因子で、日本を含む先進国で深刻な問題となっています。肥満はさらに、毛を再生するのに必要な毛包幹細胞の枯渇を引き起こし、相乗的に脱毛症を進行させることも明らかになりました。
脱毛症のプロセスは潜在性に進行することから、肥満の予防が重要であることは明らかだとしています。「肥満の環境因子や遺伝因子が器官の機能低下を引き起こすメカニズムの解明は、脱毛症をはじめとするさまざまな加齢関連疾患の理解と制御にとつながると考えられます。今後、幹細胞を中心としたさらなるメカニズムの解明により、脱毛症などの加齢関連疾患の予防や治療に対する新たな戦略へとつながることが期待されます」と、研究グループは述べています。
あ
食生活含む日常生活習慣と加齢関連疾患を大いに関連づけるものになりそうです。自分の人生、何を優先するかは人それぞれですが、やはり健康でいたいと自分は思います。
続きを見る